なぜ懸垂なのか、目的と強み
- 広背筋・大円筋・僧帽筋中下部・菱形筋・後三角筋・上腕二頭筋まで一度に鍛えられます。
- 自重で高い負荷をかけられるため、背中の広がりと厚みの両方に効果的です。
- バーを“自分の体で引き寄せる”ので、肩甲骨の使い方(下制・内転)が自然に身につき、他の種目も伸びます。
→ 背中全体像は「背中を広く・分厚くする最強トレーニング|理論と種目で作る理想の後ろ姿」もあわせてどうぞ。
種類と狙いの違い
- プルアップ(手の甲が自分側/回外):広背筋の外側・下部に入りやすい。ワイドは広がりに、肩幅〜やや広めは総合力に。
- チンアップ(手のひらが自分側/回内):上腕二頭筋の寄与が大きく、初めての1回に到達しやすい。
- ニュートラルグリップ(手のひら向かい合わせ):肩に優しく、背中意識を保ちやすい。
- リング懸垂:可動域が自然に合い、肩の違和感が少なめ。安定性は難しい分、体幹に効く。
- 加重懸垂/タオル懸垂/アーチャー懸垂:中上級者の強度・握力アップに。
セットアップ
- バーの握り:手幅は肩幅〜やや広めが基本。親指は巻くのが安全。
- 体の形(ホローボディ):肋骨を締め、お腹とお尻に軽く力。足は軽く前に出し、反り腰を防ぎます。
- 肩甲骨の初期設定:ぶら下がったら肩をすくめず、下に引き下げる(下制)意識を先に作ります。
動作の流れ(1レップの設計図)
- デッドハング:肘は伸び切り。肩をすくめず肩甲骨下制を保つ。
- スキャプラプル:肘を曲げる前に肩甲骨を下げて寄せる(下制+内転)。背中スイッチON。
- 引き上げ:肘を“脇腹のポケット”に差し込むイメージで、胸をバーに近づける。顎だけのっけない。
- トップ:1秒静止できるコントロール。胸を高く、肩は前に出さない。
- 降ろし:2〜3秒で伸ばし切る。最後までコントロールし、次のレップへ。
フォーム
- 胸を高く・肩は下へ・肘は体側へ
- バーを“引く”ではなく、肘で体を“引き寄せる”
可動域・テンポ・呼吸
- 可動域:肘完全伸展〜顎がバーを超えるまで(胸タッチ変法も可)。
- テンポ:上げ1–2秒/トップ1秒/下ろし2–3秒。反動を使わず、効かせ切る。
- 呼吸:下で吸って体幹を固め、上げる間はブレーシング。トップ〜下降で吐く。
ウォームアップ
- デッドハング 20〜30秒 × 2
- スキャプラプル 8〜10回 × 2(肘は曲げない)
- バンドプルアパート 15回 × 2、フェイスプル 15回 × 2
- 外旋系(チューブ) 各15回 × 2
- 仕上げに軽い補助懸垂で動作リハーサル
よくあるミスと修正
ミス | ありがち原因 | 直し方 |
---|---|---|
腕だけで引く | 肩甲骨が動いていない | スキャプラプル→引きの2段階を徹底 |
顎だけ上げる | 胸が落ちている | 胸を高く、軽く反る。肘を体側へ引く |
肩がすくむ | 下制が抜ける | ぶら下がり中も肩を下へ押し下げ続ける |
脚がバタつく | 体幹が抜ける | ホローボディで脚は前に。反動厳禁 |
肘・肩が痛い | ワイド過多/無理な可動域 | ニュートラル/肩幅へ戻す。痛み手前でUターン |
習得ドリル(ゼロ回→初懸垂まで)
- ネガティブ懸垂:台に乗ってトップまで→3〜5秒でゆっくり降ろす × 4〜6回
- トップホールド:顎上ポジションで1〜5秒静止 × 3〜5回
- アシストバンド:軽く支える強度で綺麗な可動域を反復
- マシン補助:フォーム固定に有効(反動は使わない)
- チンアップ先行:初めての1回を作りやすい
目安
- ネガティブが5回×5秒で余裕→アシストで8回綺麗に→素の1回に到達しやすい。
1回できたら次はここ(レップ増→加重への道)
- 2→5回:週2〜3回、RIR2で2〜4セット。反復回数の底上げ。
- 6→10回:テンポ・トップ静止を入れ質を担保。10回×3が安定したら…
- 加重懸垂:ベルトやダンベルで**+5kg**から。5回×3を狙い、+2.5kgずつ増量。
握力・前腕を伸ばす(強い背中は強い握りから)
- デッドハング:30〜60秒 × 2–3
- タオル懸垂/ファットグリップ:摩擦を減らし握力強化
- デッドリフト完全ガイド|フォーム・安全・伸び悩み解消・プログラムまで全部の練習で相乗効果
グリップ・肘・肩の微調整
- 肩が気になる:ニュートラルグリップ/手幅は肩幅へ、ワイド過多は回避
- 肘が前に出る:肘を体側“後ろ”に引く意識で、胸を高く
- 首が詰まる:トップで胸をバーへ、顎を突き上げすぎない
目的別バリエーション
- 広がり重視:プルアップ(肩幅〜やや広め)、テンポ3-1-2
- 厚み重視:チンアップ(肩幅)、トップ1秒絞り
- 総合力:ニュートラル/リング懸垂、可動域フル
- パワー系:加重懸垂 3–6回レンジ、RPE 8–9
プログラミング例(週2〜3回)
- 基礎期(4週):
懸垂 5〜8回 × 3セット(RIR2)/ネガティブ 3〜5回 × 2 - ボリューム期(4週):
懸垂 8〜10回 × 4セット(最後のみトップ1秒)/補助ロウ種目 - 強度期(4週):
加重懸垂 3〜5回 × 4セット/自重テンポ懸垂 6回 × 2
休息は90〜180秒、全レップの質>量を徹底。
肩・肘を守るケア
- セッション前:外旋/下制の活性(バンド系・スキャプラ)
- セッション後:ラット・大円筋ストレッチ、前腕ストレッチ
- 違和感が続くときはチンアップ→ニュートラルへ一時的に切り替え
よくあるQ&A
- Q. ワイドは効きますか?
A. “見た目ほど”外側だけに効きません。フォームが崩れやすいので、まずは肩幅〜やや広めが最優先です。 - Q. 反動(キッピング)はアリ?
A. 筋肥大目的では基本ナシ。スティックなテンポで“背中で上がる”感覚を。 - Q. 何回できたら加重?
A. 自重で10回×3セットを綺麗にできたら+5kgから始めましょう。
1分チェックリスト(保存版)
- 肩甲骨は下制+内転→そのまま引けた?
- 肘は体側へ引いて“脇腹ポケット”に差し込めた?
- トップで胸が高い/顎だけで越えていない?
- 降ろしは2〜3秒で丁寧に伸ばし切った?
- 反動・バタつきはゼロ?体幹はホローボディ?
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